近畿大学図書館司書 通信課程 合格レポート

2020年度 近畿大学で図書館司書資格を取得した体験記

【生涯学習概論】近畿大学図書館司書通信課程 合格レポート

設題

 ラングランの生涯教育的思想とリカレント教育の思想の社会的背景について考えてください。

 

レポート作成上の注意事項

  •  設題の趣旨を、よく理解してください。
  • 次に、テキストの内容を、よく理解しながら読んでください。
  • テキストのなかに、設問に該当する箇所を見出したならば、その箇所を理解できるまで、何回も読み直してください。
  • どうしても理解できなかったならば、参考書を読んでみてください。

 

総評基準

 テキストをよく理解しており、設問に応じた論点が、適格に表現されているか否かが、総評の基準になります。

 

★合格レポート★

 ラングランの生涯教育的思想とリカレント教育の思想の社会的背景について

1. 生涯教育のはじまり

 1965年、ユネスコの成人教育に関する会議がパリで開かれた。その会議の際に、ユネスコの成人教育部長ポール・ラングラン(Langrand, Paul; フランス人)が、教育という概念に新たな意味を込めて、フランス語でeducation permanenteという語を用いた。これが、会議に出席した波多野完治によって日本に紹介され、以降「生涯教育」という言葉が日本社会に浸透していったのである。

2. ラングランの生涯教育とは

 教育を、人生の初期の学校において行われるものとだけして考えるのではなく、学校へ行く前に、そして学校を終わった後に行われる教育にも注目し、それらを総合的に考える必要がある(垂直的統合)。また、学校という社会組織の他に、社会のさまざまな場面において教育を行っている組織・機関があることにも注目し、それらを統合的に考える必要がある(水平的統合)。

 つまり、学校以外の教育を、学校の教育と同じように、全体として考える必要がある、ということがラングランの「生涯教育」の発想の基本である。

3. ラングランの生涯教育的思想の社会的背景

 こうしたラングランの生涯教育的思想が生まれる背景には、社会の急激な変化があった。

 第二次大戦後、科学技術は急速に発展し、日本ではテレビの普及、東京タワーの建設、新幹線の開通、高速道路の整備などが成された。世界では、アメリカ合衆国ソビエト連邦との東西冷戦の中で、宇宙開発、人口衛星の打ち上げ、原子力の研究・実用化が行われた。科学技術が進歩すれば、学校で教わったことはすぐに古くなり、学校で教わった知識だけではその後の人生を過ごしていくことが困難になった。

 また、科学技術の進歩だけでなく、社会の在り方に関する認識も戦後大きく変化した。天皇イデオロギーといわれる国家の在り方に関する考え方が、民主主義の概念に変更され、「家」の概念が喪失し、自立した個人が社会の構成単位として考えられるようになった。

 1960年代以降は、学校を整備するだけでは不十分になり、学校以外でも教育が必要とされるようになった。日常生活の場でも、労働の場でも、あらゆる場面での教育という営みが、社会の要請に従い、教育改革の新しい考え方として「生涯教育」が位置付けられた。

 つまり、ラングランの生涯学習という発想は、急激に変化する社会に適応するための教育、という側面を強く持っていたといえる。

 

4. リカレント教育とは

 教育を受ける期間が終わると労働の機関になる、という人生モデルではなく、教育の機関と労働の期間が繰り返される人生モデルを、リカレント教育という。

 リカレント教育は、1973年OECD経済協力開発機構)が示した教育理念であるが、OECDが経済の発展のための先進国による組織ということもあり、経済発展という極めて実利的な関心からの発想であった。

 また、労働の現場を離れた学校で効率的な教育が行われるためには、有給教育休暇というような制度的な裏付けが必要になる。さらに、元の職場に戻ったり、転職が可能であるというような、流動的な労働市場、社会環境の整備が必要であるとし、労働環境整備の必要性を示した。

 

5. リカレント教育の社会的背景

 1960年以降、旧植民地が独立し、アジア・アフリカ等の第三世界の台頭を背景に、ユネスコにおける生涯教育という考え方が大きく変化し、生涯教育は、解放のための生涯教育という方向で考えられるようになった。先進国からの経済的社会的抑圧を受けている第三世界の人々が、その抑圧からの解放のために、生涯教育が必要なのだ、という発想である。

 この時期、ユネスコにて成人教育の担当がラングランからエトール・ジュレピ(E. Gelpi:イタリア人)に変わった。ジェルピの発想は、第三世界のみならず、様々な場面で人間としての権利が保障されず、抑圧されている人々の解放のために生涯教育が役に立つべきであり、社会の構造そのものを変革することが究極の目標であるとした。

 リカレント教育は、こうしたユネスコの生涯教育という概念に類似しているものの、ユネスコによる生涯教育論が、基本的に文化や人権という領域への関心が強いものであるのに対し、リカレント教育は経済発展という極めて実利的な関心からの教育理念の発想である。

 

6. まとめ

 「生涯学習」という用語は、欧米においては職業能力開発の文脈で使用され、第三世界の国々では、基礎教育・識字教育の文脈で使用されることが多い。日本においては、学歴社会を変革する際にキーワードとして位置づけられた。このように、それぞれが置かれている社会状況の中で、生涯学習の意味するもの、期待されるものが異なっている。

 生涯学習社会は、国民一人一人が自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることができるよう、生涯のいつでも、自由に学習機会を選択して学ぶことができ、その成果を適切に生かすことができる社会の実現が求められている。

 

2085字

 

参考文献

 香川 正弘著「生涯学習概論」東洋館出版社 978-4491008875